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長崎地方裁判所 昭和61年(ワ)234号 判決 1987年8月24日

原告

長崎生コンクリート労働組合

右代表者執行委員長

荒木邦夫

原告

高比良恵司

原告

福島強

右原告三名訴訟代理人弁護士

塩塚節夫

被告

長崎生コンクリート株式会社

右代表者代表取締役

上野喜一郎

右訴訟代理人弁護士

木村憲正

主文

一  被告は原告長崎生コンクリート労働組合に対し金一三〇万円、原告高比良恵司に対し金三〇万円、原告福島強に対し金二五万二五〇〇円、および右各金員に対する昭和六一年六月一二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の各請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告らの、その余を被告の負担とする。

四  この判決の一、三項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告長崎生コンクリート労働組合に対し金二六七万〇五四七円、原告高比良恵司に対し一〇〇万円、原告福島強に対し金四〇万円及び右各金員に対する昭和六一年六月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

1  当事者

被告会社は、生コンクリートの製造・販売を業とし、長崎県内に六工場を有する株式会社である。

原告長崎生コンクリート労働組合(以下「原告組合」という)は、被告会社従業員によって結成された労働組合であり、原告高比良恵司は、昭和五二年一二月一九日に被告会社に採用され、昭和五三年三月原告組合に加入し、本社工場で運転手として勤務してきたもの、原告福島強は、昭和四二年一一月六日に被告会社に採用され、昭和四三年三月ころ原告組合に加入し、大村工場で運転手として勤務してきたものである。

2  不法行為

(一) 被告会社は、昭和五七年三月六日、原告高比良及び原告福島に対し、小浜工場への転勤を命じた(以下「本件配転」という)。

(二) 本件配転は、業務上の必要に基づくものと説明されたが、その必要性は殆んどなく、被告会社があえて転勤を命じた真の理由は、原告組合の組合員外の従業員に対する影響力を弱め、組合組織を弱体化することを意図したものであり、不当労働行為に該当する。

3  原告らの損害

(一) 原告らは、昭和五七年三月二七日、長崎地方労働委員会(以下「地労委」という)に対して不当労働行為の救済甲立を行い、昭和五八年七月九日、原職復帰、バックペイ、謝罪文交付の救済命令を得、その後、被告会社から長崎地方裁判所(以下「地裁」という)に提起された救済命令取消訴訟に参加し、その請求棄却判決(但しバックペイ命令は取消された)を経て、これが確定した。

(二) 原告らは、被告会社の前記不法行為(不当労働行為)によって、次のような損害を受けた。

(原告組合の損害)

(1) 組合行動費

原告組合からは、地労委及び地裁の裁判のたびに、当事者又は傍聴人として数名の組合員が出廷し、そのための交通費、昼食代、駐車場代その他の雑費を負担した。その総額は、金一三七万〇五四七円にのぼる。

(2) 弁護士費用

原告組合は、地労委の審問及び地裁の審理のため代理人として弁護士塩塚節夫を委任し、手数料として地労委分一五万円、地裁分一五万円の支払を余儀なくされた。

(3) 慰藉料

原告組合は、被告会社の不当労働行為により組織上大きな打撃を受け、分裂した三組合の統一は妨げられ、組合活動は制約を受けて鈍化し、全組合員に不安感が増し、著しい不利益を蒙った。これら無形の損害に対する慰藉料は、金一〇〇万円をもって相当とする。

(原告高比良の損害)

原告高比良は、被告会社の不当労働行為によって精神的に重大な打撃を受けた。これに対する慰藉料は、金一〇〇万円をもって相当とする。

(原告福島の損害)

(1) 原告福島は、大村工場から小浜工場への転勤命令に従って昭和五七年三月一五日から昭和五八年一一月三〇日まで小浜工場へ通勤したが、これにより通勤のための燃料代金二〇万円が増加した。

(2) 原告福島は、被告会社の不当労働行為によって精神的に重大な打撃を受けた。これに対する慰藉料は、金二〇万円をもって相当とする。

4  本件請求

よって、原告らは被告会社に対し、右各損害の賠償及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和六一年六月一二日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1項(当事者)の事実は認める。

2  同2項(不法行為)のうち(一)の転勤命令の事実は認めるが、(二)の不当労働行為の事実は否認し、これを争う。

3  同3項(原告らの損害)のうち(一)の救済申立、取消訴訟及び救済命令確定の事実並びに(二)のうち代理人選任の事実は認めるが、(二)のその余の事実は否認し、これを争う。

(一) 原告組合は、地労委に出席し、又は傍聴した組合員の日当等を不法行為による損害であると主張するが、本件についての地労委の審理は、代理人がついて行われたのであり、申立人たる原告組合の代表者らが必ずしも出席する必要はなく、まして、組合員の傍聴は自ら進んでなしたものであるから、代理人へ支払った報酬に加えて右費用を損害として請求することはできない。

(二) 原告組合は、救済命令の取消訴訟に要した費用を不法行為による損害であると主張するが、地労委の救済命令の取消を求めて訴訟を提起することは被告会社の権利であり、しかも右救済命令は一部取消となったのであるから、取消訴訟の段階での費用が、不法行為の損害になることはない。

また、右取消訴訟の被告は地労委であって、原告らは自ら進んで参加人となったのであるから、その意味でも不法行為の損害にはならない。

(三) 原告組合は、地労委における弁護士費用を損害であると主張するが、地労委は、裁判所と異って労働者の保護機関であり、公益委員のほか労働者側委員がいて審理において労働者側の援助をなすことになっており、審理の進め方自体も、訴訟におけるほど技術化、専門化しているものではないから、弁護士の選任なくしても審理活動を行うことが十分可能であり、これが損害にあたるとはいえない。

(四) 原告組合は、原告組合が他組合との統一ができなかったこと、組合活動が活発にならなかったこと等を無形の損害であるというが、不当労働行為とされる配転との因果関係は希薄であって、慰藉料の支払を求め得るほどの損害が生じたとはいえない。また、法人には、精神上の苦痛はないから、慰藉料の請求は失当である。

(五) 原告高比良は、転勤命令に従わず、その間訴外愛宕タクシーで働き、被告会社の給与を上まわる中間収入を得たが、バックペイ命令の取消に基づく不当利得返還請求訴訟(別訴)において右収入を返還する必要はない旨を主張している。仮にそうだとすると、同原告は、バックペイ命令を得た上中間収入をも利得することになり、結局、不法行為により損害を受けたとはいえない。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1項(当事者)の事実は、当事者間に争いがない。

二  同2項(不法行為)の事実中、(一)の事実(原告高比良及び原告福島に対する本件配転)は、当事者間に争いがない

そこで、以下本件配転が、不法行為に該当するか否かについて検討する。

成立に争いがない(証拠略)によると、本件配転に関しては、既に地労委において、本件配転は原告らの受ける不利益に比較してその必要性ないしは合理的理由に乏しく、結局、被告会社が不況対策を口実に原告組合(第一組合)員を転勤させることによって不利益を与え、ひいては原告組合の組織運営に介入してこれを弱体化させる意図をもって行われたものと認めざるを得ないものとされ、さらに、地裁においても、同様に、被告会社は、原告組合が従前争議行為を多発させたことに少なからぬ嫌悪感情を有し、その結果、第二組合、第三組合が分裂して組織されるに至ってからは、原告組合に疎外的態度をとっていたところ、本件配転の必要性はいまだ相対的なものにとどまっていたのに、不況対策を口実に、原告組合の弱体化を図る意図のもとに、原告高比良及び原告福島が原告組合の組合員であることを主たる理由として転勤対象者に選任し、本人の意思に反して過去に例のない配転を行ったものと認定されていることが認められる。しかして、(証拠略)を総合すると、右各認定及び判断は、いずれも正当であると認められ、これを左右するに足る証拠はない。

そうすると、本件配転は、労働組合法七条に反し、労働組合の弱体化を図り、これに対する支配介入の意図をもってなされた不当労働行為であると共に、団結権を侵害し、公の秩序に反するものであって原告組合に対する不法行為を構成するものというべきである。そして、同時に、本件配転は、組合員であることを理由として個々の組合員に対し不利益を及ぼすものであるから、原告高比良及び原告福島に対する関係でも不法行為を構成するというべきである。

したがって、被告会社は、民法七〇九条により、本件不法行為によって生じた原告らの損害を賠償する義務がある。

三  そこで、以下損害について検討する。

(一)  請求原因3項(一)の事実(本件不当労働行為に対する救済申立、救済命令に対する取消訴訟への参加、救済命令(但しバックペイの部分を除く)の確定)の各事実は、当事者間に争いがない。

(二)  (証拠略)を総合すると、原告らは、本件不当労働行為を排除するため地労委に対し救済申立を行い、引続き、被告会社から提起された救済命令の取消訴訟にも参加人として参加して積極的な訴訟活動を行ったこと、そして、原告組合は、地労委の九回に及ぶ審理及び地裁の一一回に及ぶ公判期日には、毎回、当事者を含めて五名ないし一二名の組合員を動員し、これによる賃金の喪失を填補する趣旨の役員行動費(一日五〇〇〇円の割合)として合計七七万五〇〇〇円、交通費として合計一三万二八九四円、食事代として合計一三万一九六〇円、諸経費(註車代、通行料)として合計二万三六二〇円を支出したこと(ちなみに、<証拠略>によると、訴訟準備の打合わせ等を含めると、原告組合のこれらの支出の総計は、一六六万余円になる。)が認められ、これに反する証拠はない。

しかして、原告組合は、右金員の支出は、本件不法行為によって生じた損害であると主張するのであるが、前掲証拠によると、原告組合が各審理の場に組合員らを動員した理由としては、原告組合は過去に二回の分裂を経験しており、三役独断であるとかの批判を避け組合員間の意思の疎通をはかっておく必要があったからであるということがあげられているだけあって、さらに進んで、右のような動員が、本件不当労働行為に対抗して原告組合の団結を維持してゆく上で必要不可欠のものであり、かつ、一般的なものであるとの点については十分な立証があるとはいえず、さらに、個々の支出や金額についても、これを原告組合が支出、負担しなければならなかった事情についての立証がなされているとはいえず、他にこれを認めるに足る証拠もない。

他方、本件証拠上、例えば被告会社が原告組合に対し右のようないわゆる多額の闘争資金を負担させることを意図し、これを通じて原告組合の弱体化や組合運動の停滞を図る目的であえて本件不当労働行為に及んだといったような事情も認められない。

そうすると、前記のような原告組合の支出は、これを本件不法行為と相当因果関係を有する損害にあたると認めるに足りないとするほかはない。

(三)  原告組合が地労委の審問及び地裁の審理のために弁護士塩塚節夫を委任したことは、当事者間に争いがなく、(証拠略)によると、このために弁護士費用三〇万円の支出をしたことが認められる。

被告会社は、地労委段階の弁護士費用は、不法行為と相当因果関係がないと主張するが、確かに、地労委の審理においては、民事訴訟手続における要件事実や弁論主義のように高度に技術化された要素はないにしても、その審理、特に証拠調べ方法や立証技術の面では、その実情にそれほどの差があるとは解されず、本件のような事案について十分な審理活動を効率的に行い、不当労働行為に対抗してゆくには、一般に、弁護士の選任を必要とするものと解される。

また、救済命令に対し取消訴訟が提起された場合に、労働組合らがこれに参加し、使用者側の主張に具体的に反論し、積極的な主張、立証活動を行ってゆく必要があることは一般に肯認されているところであり、(証拠略)によって認められる原告組合らの具体的な訴訟活動からもこの点は明らかであるというべきである。また、取消訴訟の提起が被告会社の権利に属することや取消訴訟の判決において救済命令の一部が取消されたことから、弁護士費用の負担と当初の不法行為(不当労働行為)との間の因果関係の相当性が遮断されると解することはできない。

そして、(証拠略)等によって認められる地労委及び地裁の審理経過等の事情を総合すると、右三〇万円は、全額、本件不法行為と相当因果関係を有する損害にあたるというべきである。

(四)  次に、(証拠略)、原告組合代表者本人尋問の結果を総合すると、原告組合は、本件不当労働行為によって組織上多大の打撃を受け、組合員に不安と動揺が広がり、役員のなり手がなくなり、前記多額の闘争資金の負担等もあって、組合活動は停滞を余儀なくされたこと、原告組合は、かねて被告会社との対等な交渉力の回復を希求して、会社内の三組合の再統一を運動方針としていたところ、共通の上部団体の指導と援助を得て再統一の気運が急速に盛り上ってきた矢先に、本件不当労働行為の攻撃を受け、組織の再統一を妨げられ、重大な不利益を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

右のような原告組合の不利益は、憲法上保障された団結権の侵害によって生じた無形の非財産的損害にあたり、不当労働行為に対する救済命令の確定(なお、組合活動一般に対する侵害の救済をも考慮したバックペイ命令の部分は全部取消されて確定した)等によって完全に回復したものとはいえず、これを金銭をもって賠償させるのが相当であり、その金額は本件証拠上認められる諸般の事情を考慮して金一〇〇万円とするのが相当である。

(五)  (証拠略)を総合すると、原告高比良は、本件配転に従うことが家庭の実情からして困難であったため、配転を断って従来どおりの職場での勤務を求めたが、就労自体を拒否され、昭和五七年三月一五日から昭和五八年一二月一日復職するまでの間、タクシー会社でアルバイトをして生活をささえることを余儀なくされたこと、このため、経済的には不利益を受けてはいないものの、タクシー会社では臨時雇いとしての不安定でかつ苛酷な労働条件に甘んずるほかなかったこと、自分への配転命令に対する裁判闘争で原告組合に多大の負担をかけることへの心理的な負い目も大きかったことが認められ、これらの精神的損害に対する慰藉料としては、金三〇万円が相当である。(なお、被告会社主張の原告高比良の経済的利得に関しては、別訴が係属しており、右精神的損害とは一応別の問題とすべきである。)

(六)  (証拠略)によると、原告福島は、本件配転の理由を到底納得することができなかったが、家庭の経済的事情等から、心ならずもこれに従うことを余儀なくされ、昭和五七年三月一五日から昭和五八年一一月三〇日まで小浜工場へ通勤し、慣れない区域での仕事に苦労したこと、これにより通勤用の自家用車の燃料代金が一か月あたり五〇〇〇円ないし六〇〇〇円余分に必要となったこと、残業も減り、仕事帰りにやっていた農作業も難しくなったこと等が認められ、これらに反する証拠はない。

そうすると、本件不法行為による燃料代の増額分の損害は合計一〇万二五〇〇円(五〇〇〇円×二〇・五か月)とみるべきであり、その余の事実をすべて含めて、その精神的損害に対する慰藉料は金一五万円とするのが相当である。

(七)  まとめ

以上の次第で、本件不法行為により、原告組合は(三)及び(四)項の合計金額一三〇万円、原告高比良は(五)項の三〇万円、原告高島は(六)項の合計二五万二五〇〇円の各損害を蒙ったものと認められ、原告らの主張のうちこれを上回る部分については、本件証拠上これを採用できない。

四  結論

よって、原告らの各請求のうち、前記三(七)項の各損害の賠償及びこれに対する本件不法行為の後である昭和六一年六月一二日(訴状送達の翌日)から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は、いずれも理由があるからこれを認容し、その余の各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判結する。

(裁判官 小田耕治)

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